大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)3716号 判決

被告人 柴田勇 外

〔抄 録〕

おもうに、詐欺罪は人を欺罔して財物を騙取することによつて成立する。欺罔するということは、相手方に客観的事実と一致しない意思を生ぜしめること、すなわち、相手方をして錯誤に陥らしめることである。ところで、この錯誤という結果は、相手方における、通常人として避けることのできない不注意、無知、無思慮、無経験というような事情の存在の介入することによつて惹起されるのが一般である。それで、行為者が相手方を欺罔しようとする意思をもつて、その意思を実現しようとする行為をした結果として、相手方を錯誤に陷らしめた以上、たとえ、相手方に右にいうような事情の存在するものがあつたとしても、行為者の該行為は詐欺罪成立のための要件としての欺罔行為というに妨げないのである。さて、被告人柴田勇、同黒田末朗、同二宮正之、同近森一貫及び同真鍋理従の五名に対する本件詐欺の公訴事実を見るに、被告人等は無為替輸入でないのにかかわらず、無為替輸入の形式をかりて、台湾からバナナの輸入をすることを承認してもらたい旨の申請書を通商産業省に提出し、同省係員をして該申請書の記載内容が恰も真実であるもののように誤信させた上、申請書記載どおりの無為替輸入を承認する旨の許可書を交付させて、これを騙取したというのであるが、原判決はこの事実につき被告人等に対し無罪の言渡をした理由として説示する所を見るに、「申請書に添附された台湾省政府のバナナ輸出承認書には漢文を以て、T/T方式即ち電信送金の方法によらなければ輸出を承認しない旨、換言すれば、無償(無為替)でバナナの輸入をすることは許されない趣旨が極めて明瞭に表現されていたのであるから、当該輸出入を管理している通商局第一課の係員において、右申請書の一件書類を通覧する以上、その内容がバナナの有償輸入即ち無為替輸入でないことは、これを知らざるを得ない実状にあつたことに鑑み、無為替輸入名義を以て、有償(有為替)輸入を許可したものと認定するに難くない」としたのであつた。

しかし、記録を精査し、更に、親しく証人松尾泰一郎、同[火君]沢又治を取調べた結果に徴すれば、これは、まさに、誤認であつたといわなくてはならないのである。当時の通商産業省の係員は、被告人等の本件申請に対し、無為替輸入を許可したのであつて、決して有為替輸入を許可する意思ではなかつたのである。なるほど、申請書添附の「台湾省政府建設庁批」によれば、T/T方式によることを必要とする旨を記載してあり、通商産業省の係員はこれを見ているのであるが、申請書記載の趣旨を過信したか、或は右T/T方式なるものの真の意味を理解しなかつたか、そのいずれかによつて、多少の疑を懐きながらも、無償で輸入するものと信じて、その旨の許可をしたのである。つまり、該許可をするについて、通商産業省の係員に手落ちがあつたのである。しかし、係員に、このような手落ちがあつたからといつて、被告人等の欺罔行為の成立を否定するわけにはいかない。事の真相が、実は、かようなものであつたにかかわらず、「無為替輸入でないことは、これを知らざるを得ない実状にあつたことに鑑み(中略)有為替輸入を許可したものと認定する」というたとて、これ、事実の認定ではなくして、ただ、理窟から推して事実を擬制しただけである。すなわち、原判決は、この点において、事実でないものを事実として認定した誤を犯しているのである。しかも、被告人等は虚偽の内容を記載した申請書を提出し、そうして、その申請どおりの許可書を交付させたのであるから、その所為たるや、まさに、人を欺罔して財物を騙取した場合に該当するものといわなくてはならないのであつて詐歎罪の成立を否定すべきいわれのある筈はない。従つて、論旨は理由あるものということができる。

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